すみません、今回は虹とはまったく関係のないお話ですが、
とても大切なことなので忘れないように書いておきます。
先日、ある病院でのこと。
そこはとても大きな病院で、吹き抜けの広いホールがあり、
全面ガラス張りの向こうには人工の巨大な滝が池に流れ落ち、
池のまわりは大きな岩で囲まれています。
久しぶりのお天気です。
ホールの中にも温かな日差しが降り注いでいます。
待ち時間を潰すべく、その庭に時々目をやりながら、
私はホールの一角で書き物をしていました。
すぐ近くのテーブルから、90歳くらいの車椅子に座ったおばあさんと、
娘か嫁とおぼしき付き添いの人との会話が聞こえてきました。
おばあさんは滝を見ながら方言で、
「アレー、潮ヤアラニ(あれは潮ではないか)?」 とたずねます。
「いいえ、あれは滝ですよ」
今度は岩を指差して、「アリヤ車ヤアラニ(あれは車ではないのか)?」
「いいえ、あれは石ですよ」
そう言われてもおばあさんは、再び同じことをたずねます。
二人が立ち去る30分ほどの間に、この会話は10回くらいは繰り返されたと思います。
帰宅した後も、私はあのおばあさんの言葉が何となく気にかかっていました。
年寄りだから目が悪いとしても、
なぜおばあさんには滝が海の水に、岩が車に見えたのだろう?
人間、それほど突飛な発想はしないものです。
彼女の頭の中で何か連想させるイメージがあったに違いないはずです。
それは一体なんだったんだろう・・・・。
その時ふと、数日前に会った友人の話を思い出しました。
彼女は、ボケて妄想と幻聴や幻視の出てきた義母の介護で大忙しなのですが、
80過ぎの義母のボケの始まったきっかけというのが、
1年前、大きな台風が来たときの不安感だったというのです。
1年前の台風ーー自然災害ーー大地震ーー津波ーー流される車・・・・・。 これだ!
きっとあのおばあさんは、あの衝撃的な映像をTVで何十回も見ていたに違いありません。
孤独な老人の部屋のつけっ放しになったTVから、
何度も繰り返し繰り返し流れるあの映像・・・・・。
そんな光景が私の脳裏に浮かびました。
あの大震災以来、誰もがいまだに不安感を心の底に抱えながら日常を生きています。
非力なお年寄りが、
私たち以上に強い恐怖や不安感を覚えたであろうことは、容易に想像できます。
このできごとは、老人のボケというのが
単なる年令のせいだけではないということを私に教えてくれました。
友人の義母は、この頃はすっかり幻視や幻聴が収まって、
元気を取り戻しているそうです。
それには、家族が交替で頻繁に訪ねて世話をしたのが功を奏したとのことです。
器質的な問題がなければ、不安や孤独感を取り除いてあげることで、
ボケって直るものなんですね。
もしあなたの身近にこの頃急にボケてきたお年寄りがいたら、
この話をちょっと思い出してみてください。