レインボー・チェイサー①  幸地学 後編

tamisan

2011年12月01日 18:19

 

 先日の日曜日、久しぶりに幸地学の作品展を見に行きました。
 SWMインテリジェンスセンター・・・。初めて聞く会場の名前です。
 地図も大ざっぱで何度も同じ所をぐるぐる回ったあげく、
 住所を頼りに何とかたどり着くことができました。

 浦添市城間58号線の裏通りのスージグヮァーを入ると、
 民家のど真ん中に、思わず目をむくほどセンスの悪いラブホテルが出現したかと思うと、
 昭和30年代にタイムスリップしたような古びた家並みが立ち現れ、
 本当にこんな所に絵画展の会場があるんだろうかと不安になりながらも先に進みました。

 すると、これまた場違いなほど新しくかっこいい、
 近未来的でありながら西洋の古い建築を思わせるような、
 不思議な建物が右手に見えてきました。

 何だか時間や空間の感覚が錯綜してきて軽い眩暈さえ覚えます。
 どうやらここがギャラリーのようです。


 中に入ると、2階がメイン会場のようでしたが、1階は天井の高い広々とした薄暗い空間で、
 何の装飾もないむき出しのコンクリートの壁面に、
 大きな絵が一点づつ、ぽつんぽつんと掛けられてありました。
 部屋の中にあるのは、角を取った三角形のような変わった形の大きなテーブルと、
 それを囲む9脚の黒い椅子だけ・・・・。

 がらんとした薄明の中にそこだけスポットライトを浴びて、
 幸地学の絵がぼおーっと浮かび上がっています。
 

 ここまでの迷い道で疲れていた私は、椅子に座って休むことにしました。
 誰もいないそのスペースにぽつんと一人身を委ねていると、
 自分が日常から切り離された異質な空間に突如放り込まれたような、
 不思議な気分になりました。

 隣の部屋をガラス越しにそっと覗いてみると、
 医療用なのか正体不明の機械がびっしりと立ち並んでいます。
 どうやらここは本来はギャラリーではなさそうです。
 普段は何かの会社だろうと思うのですが、
 10日間も展示会のためにこんなに広いスペースを提供するなんて,
 いったいどういう組織なのでしょう。

 倉庫にしてはおしゃれすぎるし、表扉の名前からもさっぱり見当がつきません。
 ほかに手がかりを示すものは何もなく、すべてが謎のままです。


 今回は会場の空間演出にも、幸地さんはだいぶ力を入れられたと聞きます。
 もしかしたら、”幸地学展”と貼り紙されたあのスージグヮァーの入り口あたりから、
 それは配意されていたのでしょうか?

 迷い、驚き、困惑、デジャ・ヴ、混乱などから一転して静謐な空間へ。
 猥雑な俗世から美のサンクチュアリへ。
 現世の濁った光から、清らかな薄明の世界へ・・・・。
 短い距離の間に何とさまざまなトリップをしてきたことでしょう。

 思い返してみると、道に迷い始めたあたりから、 
 私は彼の演出空間という大きな作品の中にいたような気がします。

 今でも私の心の暗がりには、あのひっそりとしたシュールな空間に、
 幸地学の絵がぽっかり明かりを灯して佇んでいます・・・・。


 追記: 会場で幸地氏を見かけたとき、誰かに似ていると思ったのですが、
 最近ユーチューブでマスター・キートンを見ていて思い出しました。
 
 
 彼は何と私の大好きなタイチ・キートンに似ていたのです。
 これは私にとって嬉しい発見でした。
 マスター・キートンの原作者である葛鹿北星も、私の中のレインボー・チェイサーなのです。
 葛鹿北星については、また日をあらためて書いてみたいと思います。

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